NHK「新型インフルエンザの恐怖」御覧になりましたか。土曜日にはドラマ「感染爆発 パンデミック・フルー」もありましたね。
アメリカでは、インフルエンザパンデミックが発生した場合、専門の内科医のみならず歯科医師も含めて全ての医師が治療の対応に当たることになっています。
私にもその覚悟はできていますが、残念ながら日本ではそういう議論さえなされていません。
この10日、中国では、鳥インフルエンザの人から人への感染例が初めて確認されたようです。 非常に危惧していた状況が近づいてきたようです。
NHK「感染爆発~パンデミック・フルー」より
ちょっと難しくなりますが、 インフルエンザウイルスの表層には、ヘムアグルチニン (HA抗原 ウイルスが宿主細胞に侵入する際に必要) とノイラミニダーゼ(NA抗原 ウイルスが宿主細胞から遊離する際に必要) とが存在し、それぞれ複数の亜型があります。新型トリインフルエンザはH5N1型です。
そしてインフルエンザウイルスの遺伝子が細胞質の中に入るには、HA(ヘムアグルチニン)が2つに解裂して、HA1とHA2のサブユニット構造にならなければいけません。
HAを2つに分裂させるのに必要なのが、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素) という酵素です。
大事なのは ここからです。
通常、健康な成人は、インフルエンザウイルスに感染しても、ウイルスが下気道や肺に到達することはないのですが、 口腔内が不衛生であった場合 上記のようにインフルエンザウイルスの働きを助けるノイラミニダーゼやプロテアーゼをつくる歯周病菌が口腔内に多く存在するようになり、 インフルエンザウイルスの肺の細胞などへの侵入、吸着、増殖をさせ易くしているということです。 (タミフルは ノイラミニダーゼ阻害剤です)
特に成人性歯周炎の発症・増悪に関わる最も重要な病原性細菌である P.gingivaris(ポルフィロモナスジンジバリス)は、インフルエンザ活性プロテアーゼを産生すると共に ジンジパイン(トリプシン様プロテアーゼ活性)という酵素による全身性血管内凝固症候群を,細菌の表層の成分のリポ多糖(内毒素であり、炎症性サイトカイン産生や骨吸収を誘導し、TNF-αやPGE2の活性が上昇する)が心筋梗塞、糖尿病 他様々な全身疾患に関わるとされる最も注意しなければならない歯周病菌です。
歯周病が歯周ポケット内での炎症性サイトカインの過剰産生(サイトカインストーム)などに因る骨吸収である とするならば トリインフルエンザによる重篤な症状は全身的なサイトカインストーム(サイトカインの嵐)であると言えます。
これまでのWHOのデータでは、免疫力の活発な若くて元気な人ほど過剰な免疫反応(サイトカインストーム)を引き起こし、致死率が老年者より遥かに高いのです。
この点において トリインフルエンザは通常の弱毒型のインフルエンザとは全く別物であると認識しなければなりません。
この非常に危険なウィルスのパンデミックの可能性を目前にして 歯科医師の立場から私が助言できることは、しっかりとした口腔ケア、歯周病の治療をやっておきましょう ということです。 実際 通常のインフルエンザにおいても口腔ケアをした場合はしない場合に比較して、インフルエンザ発症率が十分の一ほどになるとのデータがあります。
口腔ケアによる歯周病菌の抑制(歯周内科治療は特に有効です)とそのことに因るプロテアーゼ、ノイラミニダーゼ抑制 がインフルエンザ感染防御にとって非常に大切なことだということを認識して頂ければ幸いです。
食糧は、缶詰やスポーツドリンク、カロリーメイトなど長持ちするものを選びましょう。日用品は、マスクやゴム手袋、常備薬といった医療グッズから、携帯コンロや懐中電灯など、ライフラインが途切れた事態を想定した非日常品も準備しておきましょう。
パニックになる前の周到な準備をお勧めします。
無用な扇動をするつもりはありませんが、多くの人がトリインフルエンザに対する知識を持つと共に、最悪の事態を想定して冷静な対応をとることが最小の被害に導くと信じています。